2020年7月7日火曜日

⑦これも奇遇

人生には奇遇も少なくないと思う。

しかし、奇遇も気が付かなければ奇遇には

ならないと思う。

奇遇はちょっとした一言で生まれるような

気がする。

親友YNさんは僕より一年先に入社の先輩に

あたる。

入社以来独身寮で過ごしたと言うから横浜

界隈のグルメも半端でない。

孫悟空が金団雲に乗って飛び回っても、

お釈迦様の掌から出れなかったという故事

のように、僕は彼から伝授された恩恵範囲

で楽しんでいるような気がする。

ある日、彼が横浜尾上町界隈の新しい割烹店

に連れて行ってくれた。

通り過ぎても気が付かないほどの店で、

その頃NHKの特集などでブームになっていた

廬山人の放送準備・解説を担当できるほどの

人の店だと後で知った。

勿論、YNさんは店に入る前に教えてくれる人

じゃあない。

細身の和服のイタさんが一人の店だった。

客は我々二人で満席になるくらい。

しばらく、待っていると奥に入っていたイタ

さんが作った料理を出した。

一つずつ、料理を作って来ては客に出し、

しばらく客と話をすると云う風な、凝った店だ。

何故か僕には、イタさんのイワシ料理が懐かし

かった。

「このイワシ料理は美味しいですね。僕の田舎の

味がする」と僕。

「田舎はどこですか?」「言ってもわからないで

しょうが、萩の隣町ですよ」

「エーッ、私は大津高校です」

今度はYNさんと僕が驚いた。

話す程に、彼が古市の自転車店の息子で、美大を

出た後京都の廬山人縁の店で修行して来て、

廬山人の解説者も務めるようになったという。

「綺麗な上級生のお姉さんが居ましたねえ? 

近くの先輩と大恋愛でKMさんと結婚した」・・・。

「姉は中学生の時、KY先生のお宅にピアノ

を習いに行ってました」確かに母が僕らの

学費捻出にピアノを教えていた時代があった。

「私は姉に付いてよく行っていましたよ」

「信心もイワシの頭から」と言う諺があるが

「奇遇もイワシの頭から」ってこともあるものだ。