2021年2月23日火曜日

(74)草枕スケッチ帖⑮




     ⑮


 [Please excuse our appearances 


            during construction]


有名なスミソニアン宇宙航空博物館入口付近の


スロープ工事の現場に掲げてあった横広の立て看


板である。


つまらないことに何を感心しているのかと語学力


を笑われそうだが、僕にとっては「これだから英


語が好きなんだ!」ということになる。


この場合、日本語の看板だと「工事中お見苦しい


点ご迷惑をおかけしております。ご容赦のほどお


願い申し上げます」か「工事中でお見苦しいと思


いますがご容赦ください」程度だろう。


日本語では、お見苦しく感じるのはあなたであっ


て、もしいやなら許してよ、という日本語的責任


回避表現に思える。


だから日本語日常会話に使わない語をもちいる。


「工事中で外観を損なっています。どうぞしばら


くの間お許しください」と責任逃れないスミソニ


アン風ににきれいに書くような国にしたいものだ。


でも、イタリアでも、USAでも、常設展示は皆無


料で見ることができるし、写真撮影だって許され


る。  


司馬遼太郎さんではないが国のかたちということ


を考えさせられる。




2021年2月21日日曜日

(73)草枕スケッチ帖⑭


      

       ⑭


午後ホテルに戻ってパリエアショウで知り合った


北海道の真鍋さんの旧友というC.ボツホルドさん


にワシントンに到着の挨拶をしておこうと思って


オフィスに電話をしたら「残念です。この五月に


亡くなり(パスド・ア・ウエイ)ました」という。


パリで 天啓とも思える偶然のお知り合いになった


とき確か七十四歳でいらっしゃったので残念だが


無理もない。早速彼の旧知の友人、北海道の真鍋


さんに電話を入れた。パリ以来、写真と文通のお


付き合いだった。アメリカの輸送大企業エバー・


グリーンのエグゼブティブだった人で、敗戦直後


には米進駐空軍の千歳基地の副司令官だったとい


う。今回出発前にお知らせしようかとも思ったの


だが、ご老体を煩わせてはと控えさせていただい


たのが虫の知らせだったのか!


心より、ご冥福をお祈りしたい。


ワシントンDCも朝が早い。税制優遇措置があるた


め確か住民の70%以上を黒人が占めるから、勤め


人が帰ってしまう夜間の市街地は黒人ばかりになっ


てしまうという。それでも、朝はきちんとした身


なりのサラリーマンがビルに入って行く。


歩きながら食べる果物やパンを置いた屋台も開い


ている。ニュウヨークと違って街はきれいで清潔


である。



2021年2月19日金曜日

(72)草枕スケッチ帖⑬



     ⑬


ローマ近郊の,EU諸国特有で、イタリア国が投資


しているという意味での国営企業などの視察をし


た後、ニュウヨークJFK空港経由でワシントンDC


に飛んだ。


ローマ空港では携行荷物の検査がものものしく近


隣国でテロが激増している背景を思わざるを得な


い。


映画から抜け出してきたような美人の女兵士が防


弾チョッキに身を固め自動小機関銃を構えて警備


に当たっている姿には度肝を抜かれた。


仲間兵士たちと、にこやかに話をしているだけに


余計に厳しさを感じた。


何時起こるか判らないのだ。


厳重な検査の上、イタリアの航空会社の係員は仕


事が超遅く、やる気があるのかと怒りたくなるよ


うな手際で乗客を捌けず出発遅延。


また、6時間時差のフライトをしてニュウヨーク


で乗り換えて夕方遅くにワシントンDC着。


明日からシェラトンホテルで開催される米国陸軍


協会の年次総会と装備展示会に出席する予定。


やっとまた英語圏に帰ってきた心安さで中里団長


をはじめグループ四名でタクシーで名物ステーキ


を食べに行った。タクシーの黒人運転手の話では


今日昼間、ゲイが結婚による優遇税制処置を要求


してデモをし市内交通が混乱したとのこと。


複雑な国でもある。 



2021年2月16日火曜日

(71)草枕スケッチ帖⑫



 ローマは2度目の来訪である。


あのとき、帰国したら是非イタリア語を勉強しよ


うと思ったものだったが、喉元過ぎれば・・・で


ある。情けない。


ラテン語をかじればラテン系語を理解できるので


はと、ラテン語の有名テキストから始めたのが、


そもそもの間違いだったのだ。自分を知らないの


に程がある。


せめて、イタリア語の基本単語帳だけで良かった


のだ。


2度目の旅は心理的に少し余裕がある。


もう一度行ってみたい所と、もういいや、という


所がわかる。


今回は、日本人がやたら目に付いた数年前の前回


と違って、韓国人と中国人などアジア系の人が断


然増えたという印象である。


外見はさほど違わないが、元気が良いのと目の輝


きが違う印象だ。国の力が付いて来ている表れだ


ろう。


それと、バチカンに参詣する姿勢も違うようだ。


キリスト教徒にとってバチカンは絶対の信仰対象


で、これを冒涜することは許されない。


国は違っても宗教心のある国の人は、他の宗教の


聖堂を鑑賞するにしても、何が冒涜に当たるかを


知っているから節度があるように思うのは、気の


せいか。


ついに、ピエタ像はガラスの中に入ってしまった


し、係の人の誘導も厳しくなった。




2021年2月13日土曜日

(70)草枕スケッチ帖⑪





 ローマはユークリッドという北の街のリッツ・


グランドホテルに泊まった。


幾何学のユークリッドと関係があるのかどうか、


ホテルで聞いてみたが、さっぱり要領を得な


かった。


ギリシャ時代のユークリッドで起こったと言わ


れる街と、ローマと言っても丸きり時代も場所


も違う。


すぐに故事来歴を尋ねたがるのも悪い癖かも知


れない。


バールに行ってパンやコーヒーやビールを飲む


という術を覚えた。


イタリア人は結婚してしばらく経つと奥さんが


旦那より遅く起きるようになり、旦那の出勤前


の朝食は子供と一緒にバールに寄ってコーヒー


とパンを摘まんでいくようになるという笑い話


があるそうだ。


立ち食い蕎麦で済ますようなものだろう。


しかし、真に受けるのは禁物である。


日本に帰ってから家で話そうものなら、バンソ


ウコウを張って出社する羽目になりかねない。


それにしても、ローマ人も朝が早い。


夜は遅くまでガチャガチャやっているのに、朝


は早くから車は急ぐし新聞スタンドやバールは


開いている。ローマ時代のローマ人もこうだっ


たのだろうか。


初めてではないが、フォロ・ロマーノや住居の


遺跡を見て、ここを駆け抜けて行った遥かな


歳月・時空への思いに身震いするのである。   



2021年2月11日木曜日

(69)草枕スケッチ帖⑩




ラ・スページアという北部の街から特急列車に乗っ


てローマまで団体の列車旅行である。


何よりも大変だったのが人数分の重い大型ラゲッジ


を低いホームから高い列車のデッキまで積み込むこ


とだった。デッキの入口は人一人の狭さだし、他の


もいるは、発車時刻は迫るは、通路は狭く大量の


荷物を一列に並べるのがやっとで、通路の端から端


まで大型ラゲッジが並びお客さんに迷惑を掛けたり


した。旅行社の吉川さんはもう懲り懲りだと思った


ことだろう。


しかし、列車旅は飛行機と違い楽しいハップニング


が起こる。


英語の出来ないイタリア青年とイタリヤ語の出来な


い我々3人のコンパートメントに、後からスペイン


語とイタリア語と英語の出来る髭のアルゼンチン


青年がやって来た。話すほどに彼はオペラの一員で


NHKや神奈川県民ホールで「アイーダ」上演に加わ


わったという。それではと、兵士の合唱を口ずさん


だらイタリア青年も「ベルディはイタリアの国歌に


もなっているんだ」と、期せずして大合唱になった。


映画「終着駅」のローマ・テルミニ駅に着くまで、


陽気な車掌さんまで巻き込んで、肩たたき合う仲に


なったのは言うまでもない。


 

2021年2月9日火曜日

(68)草枕スケッチ帖⑨

       


            ⑨

 

 まだ時差ボケが続き、朝早くから目覚める。


暗い中をスケッチ道具を抱えてホテルを出る。


シャツ姿では寒い。


 驚いたことに、まだ暗い6時過ぎには、もう通勤


の人らしいのが石壁の小さなドアを開けて道に出て


来る。大きいドアは商店で、もうシャッターを開け


にかかり、店の前の掃除の掃除を始める。


「ボンジュールノー」


中天に下弦の月を見ながら大学をスケッチしている


と、歩きながらこちらに寄って来て、立ち止まって


スケッチブックを覗き見てくれる。


「ボンジュールノー」


寒い朝だが一泊だけのお付き合い。


自分はイタリア語はからきし駄目だが人々は優しい。


 スケッチを何とか終えてホテルの朝食に戻る途中、


食器屋さんが店を開いた。思い出して早速エスプレッ


ソを煎れるパーコレーターを尋ねた。


あったあった。アルミ合金の鋳物の八角形のやつ、


銀製の高級品も良かったが安くはない。


 店のおばさんと手つき会話をしてアルミのを買う


ことが出来た。パッキンの予備も付けて僅か1,000


円ほど。日本だと数倍の値段だ。


 早起きは3文の得、とはよく言ったものだ。


ローマでは店だって見つからないだろう。 

2021年2月6日土曜日

(67)草枕スケッチ帖⑧

       


 

       ⑧


斜塔を離れると、そこは中世からの大学の街で


ある。


旧市街の中心になる所に大学本部の建物があり、


狭い石畳の道の両側に続く古い石の建物の小さな


扉の奥は殆どが大学のカレッジである。


思い思いの学生が出たり入ったりしている。


自転車やバイクや徒歩。質素だ。


斜塔がこちら側に傾いているため手前の建物


の上からのぞき込んでくるように思える。


そこでは騒々しい観光客の姿は蒸発している。


 グランドホテル・デュオーモはこの斜塔の


見える街角にあり大学の中心の入口に当たる


所である。落ち着いた良いホテルである。


 路地のような大学街を抜けると大きい川の


ほとりに出て、向こう岸は新市街である。


交通量も多く活気があり中世の斜塔だけの


田舎町ではなく、イタリアでも大きい方の


街だということわかる。


 翌日バスでラ・スペジアというピサの北


約一時間の街にあるオットー・ブリーダー社


という大きい国営企業傘下の工場を訪問したが


その後、特急列車でローマに向かう時、特急列


車がピサに停車した位に大きい街である。



2021年2月4日木曜日

(66)草枕スケッチ帖⑦

 


        

        ⑦


 説教を聞くドームは何の変哲もないただの石作り


のドームだが、内陣を支える柱のうちの1本の元で


発声すると反響音がコダマ現象で非常に長く続き


独りの発声で三重四重の和音に聞こえる。


良くしたもので、入場切符を切るおじさんが


コーラスに早変わりして、中世の教会音楽や


ミサ曲思わせる音程のアダージオを歌ってく


れた。


中世の人が天の声、神の声と聴き紛うだろう


と思える素晴らしい音響だった。


 おじさんがやってみないか言う調子に乗っ


て、3フレーズだけ真似してみた。


私の耳にも最初に最初に発生した自分の音程


が返って来て今出している発声とが重なって


和音になった。


 定年になったら、ここで切符切りをやらせ


てもらい観光客に毎日歌ってやるがよいと、


ギクッと身に堪える憎らしい言葉の仲間がいた。


癪だが本当だ! 日々にわずかのパンとワイン


が尽きず、歌を歌い絵を描いて争わず人と話し


暮らしていければ、こんなに素晴らしいことは


ない。欲を言えば、十数頭の羊が欲しい。


 前の広い芝生の先はお土産物の市が続いてい


る。革ジャンを売り歩く黒人に囲まれスケッチ


をしている。


お前たち、俺のものを持っていくなよ。


(近年、TVに出て来た映像を見ると、この辺り


は)瀟洒な商店街になっているようだ)