2021年2月9日火曜日

(68)草枕スケッチ帖⑨

       


            ⑨

 

 まだ時差ボケが続き、朝早くから目覚める。


暗い中をスケッチ道具を抱えてホテルを出る。


シャツ姿では寒い。


 驚いたことに、まだ暗い6時過ぎには、もう通勤


の人らしいのが石壁の小さなドアを開けて道に出て


来る。大きいドアは商店で、もうシャッターを開け


にかかり、店の前の掃除の掃除を始める。


「ボンジュールノー」


中天に下弦の月を見ながら大学をスケッチしている


と、歩きながらこちらに寄って来て、立ち止まって


スケッチブックを覗き見てくれる。


「ボンジュールノー」


寒い朝だが一泊だけのお付き合い。


自分はイタリア語はからきし駄目だが人々は優しい。


 スケッチを何とか終えてホテルの朝食に戻る途中、


食器屋さんが店を開いた。思い出して早速エスプレッ


ソを煎れるパーコレーターを尋ねた。


あったあった。アルミ合金の鋳物の八角形のやつ、


銀製の高級品も良かったが安くはない。


 店のおばさんと手つき会話をしてアルミのを買う


ことが出来た。パッキンの予備も付けて僅か1,000


円ほど。日本だと数倍の値段だ。


 早起きは3文の得、とはよく言ったものだ。


ローマでは店だって見つからないだろう。