⑨
まだ時差ボケが続き、朝早くから目覚める。
暗い中をスケッチ道具を抱えてホテルを出る。
シャツ姿では寒い。
驚いたことに、まだ暗い6時過ぎには、もう通勤
の人らしいのが石壁の小さなドアを開けて道に出て
来る。大きいドアは商店で、もうシャッターを開け
にかかり、店の前の掃除の掃除を始める。
「ボンジュールノー」
中天に下弦の月を見ながら大学をスケッチしている
と、歩きながらこちらに寄って来て、立ち止まって
スケッチブックを覗き見てくれる。
「ボンジュールノー」
寒い朝だが一泊だけのお付き合い。
自分はイタリア語はからきし駄目だが人々は優しい。
スケッチを何とか終えてホテルの朝食に戻る途中、
食器屋さんが店を開いた。思い出して早速エスプレッ
ソを煎れるパーコレーターを尋ねた。
あったあった。アルミ合金の鋳物の八角形のやつ、
銀製の高級品も良かったが安くはない。
店のおばさんと手つき会話をしてアルミのを買う
ことが出来た。パッキンの予備も付けて僅か1,000
円ほど。日本だと数倍の値段だ。
早起きは3文の得、とはよく言ったものだ。
ローマでは店だって見つからないだろう。