2016年5月8日日曜日

駆け出しの頃(笑い話?・おとぎ話?)-1

駆け出しの頃(笑い話?・おとぎ話?)-1

 入社して配属された工場の北側は、東京の大田区と神奈川県の川崎市を隔てる多摩川の川崎側の畔であった。
町の名が付くほどの広い敷地の東側は、国道1号線いわゆる「夜霧の第2国道」に面し、国道は多摩川大橋に続いている。
東側の県道は公園や民家を挟んで多摩川土手に面している。
西側にはNTTなどのビルや工場や民家などが続いて、3kmほど先のJR鹿島田駅に続く商店街である。

 工場の敷地内は、当時西側にテレビを含む家電生産の小向工場、東側に総合研究所、北側に半導体開発・生産のトランジスタ工場に3分していた。

 ワシたちが配属された無線機技術部レーダー課は南側の道に面した3階事務棟にあり、西側には6階建ての大生産棟が建っていて、当時はテレビ生産ラインも、電子計算機につかうビーズ上のコアをエナメル線でクロスに編み込むメモリ装置もここで生産していた。
この工場の屋上は展望が良く、南側に海こそ見えないが、川崎駅に続く家並み、西側には低い工場や民家の家並みが続き、比較的背の高いビルと言ったらわが社の女子寮くらいであった。

 そのころオーストラリアの気象レーダーの提案話があり、主任格の藤井さんと、大越さん、伊ケ崎さんの先輩に付いていたが、今考えてみるとそれまで日本の気象レーダーの実績は殆ど無くて伝説クラスの室戸岬の気象レーダー位であった。
何も知識がなかったワシら新入課員に与えられた仕事は差し渡し40cm位のアルミ箔の3角4面立体タコのマイクロ波反射信号を捉えよ、というものだった。

 実験に使う装置は、米国HP(ヒュウレット・パッカード)社のSG(シグナル・ジェネレーター)とラッパ状のマイクロ波アンテナとシンクロスコープとマイクロ波検波・受信機など。
今思うに、テーマを与える方も受け取る方も、噴飯もの!漫画だ!
1mmwのSG出力を小さいアンテナで発射して、シンクロで受信するという無茶なこと。

 はじめ、信号が受からないのが距離が近すぎる所為かと思ったので、ラジオ・ゾンデに使う1mほどのヘリュウム気球にコーナー・レフレクターをぶら下げて凧揚げのように飛ばすことを思いついた。
真上に上がったのでは困るから、風のある日、屋上から西の方に上げた。
糸はドンドン伸びていく。
気球の高度は思ったほどの高さを取れない。
車往来が少なかったこの頃でも、糸は道路の車の上を伸びて行く。
アーッ!風船が落ちる!遂に1kmくらいの商店街の入口辺りに落下したようだ!
糸巻きの端に目印をつけてビルの下に投げ落とし、夢中で工場を飛び出し、一人は糸巻きを探し、一人は気球を回収に行く。
屋根や道路の上に落下している糸には人々はまだ気付かない!
早く気球を見つけて糸を切らないと!

 やがて、気球とレフレクタが見つかり、糸を切り離して、手元の糸巻きに手繰り寄せれば万歳だ!
スルスルと無事手繰り寄せれば良かったが、実際は工場に近い女子寮の屋上で糸が何かに絡まってしまった。
これを解くには、女子寮の屋上に上がらせてもらう必要がある。寮長のおじさんは、昼間女子工員たちがいないとはいえ、女子寮の部屋を上から覗くのではないかと寮長のおじさんに疑われたり、散々な目にあったが、不幸中の幸い、町や車からクレームもなく、すべて世は事もなく!