2021年2月11日木曜日

(69)草枕スケッチ帖⑩




ラ・スページアという北部の街から特急列車に乗っ


てローマまで団体の列車旅行である。


何よりも大変だったのが人数分の重い大型ラゲッジ


を低いホームから高い列車のデッキまで積み込むこ


とだった。デッキの入口は人一人の狭さだし、他の


もいるは、発車時刻は迫るは、通路は狭く大量の


荷物を一列に並べるのがやっとで、通路の端から端


まで大型ラゲッジが並びお客さんに迷惑を掛けたり


した。旅行社の吉川さんはもう懲り懲りだと思った


ことだろう。


しかし、列車旅は飛行機と違い楽しいハップニング


が起こる。


英語の出来ないイタリア青年とイタリヤ語の出来な


い我々3人のコンパートメントに、後からスペイン


語とイタリア語と英語の出来る髭のアルゼンチン


青年がやって来た。話すほどに彼はオペラの一員で


NHKや神奈川県民ホールで「アイーダ」上演に加わ


わったという。それではと、兵士の合唱を口ずさん


だらイタリア青年も「ベルディはイタリアの国歌に


もなっているんだ」と、期せずして大合唱になった。


映画「終着駅」のローマ・テルミニ駅に着くまで、


陽気な車掌さんまで巻き込んで、肩たたき合う仲に


なったのは言うまでもない。