2020年7月5日日曜日

④ホビー・フォトグラファー

カルフォーニア・ノースリッジ市の中央部あった

商店街に、あるデリカテッセンの店があった。

あったと書いたのはノースリッジ市は、大分前に

大地震が発生して様変わりしていると思われる

からである。

一緒に行った、初渡米の若い友人を昼飯に案内

して商店街を物色していた。

デリカテッセンはアイスクリームなどハンバーガー

に挟む具のショウケースが並んでいて、好きな具

を注文すると、背の中背のスポーツ着の活発な

女性が食パンに挟んで出してくれるファースト・

フードの店だ。

コーヒーやミルクもあって、店の用意したテーブル

で食べられる。

テーブル広場の衝立奥にパーテーションで囲まれた

部屋があって、A2位な大きさのモノクロ写真が展示

してあった。

その頃は、僕もフォトグラファー気分で一眼レフを

持ち歩いていたから、ヨセミテらしい山岳風景の展示

写真を見せてもらっていた。

いつの間にか、ラフ着の男の人が傍に来て「写真は、

どうですか?」と聞く。

記念品にとヨセミテの写真を2、3枚買った。

しかし、額のままでは持ち帰れないし、大きすぎて

ラゲッジにも入らない。

男性に相談すると気軽に奥に持って行って、写真を

くるくる筒状に巻いて持ってきてくれた。

出された名刺の肩書には「ホビー・フォトグラファー

・エーリッヒ」とあった。

デリカテッセンの店の女の人は奥さんだった。

午後、店が終わると、テニスラケットを数本持って

テニスコートに行くそうだ。

僕たちはエーリッヒに招かれて、彼の現像室を見学に

行った。

プールもある広い家で、現像室もプロ並みだと思った。

独りでヨセミテの写真を撮り続けているのだそうだ。

日本にも撮影に行きたいとも言っていた。

何年か文通しているうちに、大地震のニュースがあって

ジャパン・タイムス紙にノースリッジの見覚えある

ビルの惨状写真が載っていて、エーリッヒからの

手紙も来なくなった。

二年前、思い出してインターネットで、エーリッヒを

検索した。

同名のプロ写真家の名があった。彼かも知れない。

手紙を書いてみる手がかりもない。