2020年7月11日土曜日

⑭最後のアイヌ酋長シャクシャイン

北海道の今は、新日高市の静内地区の東外れ、

静内川に面した高台に、真岡(モウカ)公園が

ある。

ここにはアイヌ民族記念館があって、今でも

アイヌ族の末裔たちが集まって民族のお祭り

をするそうだ。

松前藩に追い詰められた北海道のアイヌ族が、

その時、最後になった酋長シャクシャインに

率いられて、この丘に立てこもり抵抗し果て

たと言われている。

この丘の西方を望む高台は、見晴らしの良い

展望台になっていて、いかにも戦略的に優れた

場所だろうと知れる。

傍の大広場には高さ6、7mはあろうと思われ

る大きなシャクシャイン立銅像が立っている。

率いるアイヌ族に号令を掛けていると言われる、

長い二股の木槍を天に向ってかざし雄たけびを

発しているかのようだ。

丁度、我々がこの丘の先の第7高射特科連隊の

発射試験場で毎夏実用試験をやっていた関係も

あって、シャクシャインの天に向った槍が、

射場に向っているようで、いつの間にか我々の

守り神になっていた。

我々は、試験の前後によく足場にしたり、補給

工場を千歳市の隣の恵庭市に作ったので、地元

の懇親会にも出るようになっていた。

ある地元懇親会で、恵庭市から山奥を抜けて

札幌に向かうスキー場の近くの盤尻に住んで

おられると言う芸術家竹中さんと席が隣り

合わせた。

竹中さんはサッポロビール恵庭工場の併設

レストランの冬場の氷雪デコレーションタワー

をデザインされているそうだった。

話が我々の仕事話になって真岡のシャクシャイン

像の話をした。

「あの像はワシが創ったのだよ」と聞くに及んで

その偶然の出会いに魂消た。

竹中さんは出身が大分大の教育部卒で、札幌近く

の小学校に奉職して郊外の西岡でアトリエを構え

たが、リンゴ園の中だったアトリエが町中に変貌

したので、廃校した小学校の廃材で自らこの盤尻

の山奥にアトリエを開き、シャクシャイン像の建立

に手を挙げたと言われる。

庭にはシャクシャインの1/2のアニール像(銅像

が冷えた時のゆがみを試験する予備試験像)が

立っていた。

それからというもの、サッポロビール工場の

TN工場長や町の有志や竹中さんと緊密な付き

合いを続けたが、竹中さんを支え続けてこられた

奥様には悪友として疎まれるようになってしまった。

そうこうしている内に、病を得た竹中さんはあっと

いう間に帰らぬ人になってしまった。

今も盤尻には竹中さんの奥さんとお二人の子供さん

一家がアトリエ喫茶を営んでおられるようだ。

これも滅多にない奇遇であった。