2021年7月28日水曜日

(88)リハビリ日記⑪ 最後のアイヌ酋長の像のアーティスト故竹中敏洋さんの記憶。

  北海道新日高市静内の静内川を隔て


た対岸の丘に真歌(まうた)という西


の静内市街方向から攻めてきた松前藩


のアイヌ掃討作戦で戦った、最後の酋


長シャクシャインの銅像がある。


 北の同胞たちに決起の雄たけびを上


げる像と見える。


掲げる槍先が8m位あろうかという大


きい立像である。


 僕たちが長年、この先にある第7高


射連隊の海岸射場に手掛けた防衛器材


の実射試験の空を指しているような位


置関係だから、最初訪れた時から試験


の守り神みたいになっていた。


北海道・恵庭市に関連機材のメンテナ


ンス新工場を開くために赴任した僕は


新しく遊び友達なった地元の面々の飲


み会に加わっていた。偶々僕の隣に座


っていたのが竹中さんだった。


 話をするにつけ、彼は大分の教育大


出身で北海道で氷に魅せられ、東京で


夏に氷芸術祭りをやったこと(僕も


NHKの日曜芸術特集で見たことがあっ


た)し、千歳市支笏湖畔の冬の氷涛祭


りを立ち上げたとか、彫刻作品があち


こちにあるとか、地元のサッポロビー


ル工場のレストランの庭に毎年氷モニ


ュメントを立てているそうだった。


 竹中さんは元々札幌郊外の西岡とい


うリンゴ林地帯の奥にアトリエを持っ


たが、町が膨張して気が付いたら町中


になっていたので恵庭市の山奥の盤尻


にアトリエを建てたそうであった。


 知り合って間もなく、車で盤尻のア


トリエを訪ねた。


 広い家と鋳物アトリエがくっついた


建物で、彼が廃校の校舎廃材からの手


作りという。


漁川ダム下の流れに沿った裏と横の広


い庭には畑もあり、古いモーターボー


トや小型トラクターも置いてあり、ア


トリエの前に真歌のシャクシャイン像


の1/2アニール像が立ててあった。


大きい立像の建立前に銅像の鋳物が冷


却する際、部分歪みが出ないか、確か


めたのだという。


 クマが出るので、食べ物は置けない


という奥地だから、高校出てすぐ札幌


に朝早く軽で恵庭駅に出て、札幌まで


通っているそうだった。


 その頃、竹中さんは金属が溶融し液


体から固体に移る刹那の表情を追う仕


事をしておられた。


 その話ばかりだったが、仲間はこの


庭で夏は川までの道を作り水場でビー


ル缶を冷やしバーべキュウをし、冬場


は庭に大きい氷室を作り中でバーべキ


ュウをした。


 奥様から「もう竹中を悪い遊びに誘


わないで!」と言われ敬遠された。


 それから人事異動で恵庭から去って


年賀状の付き合いが続いたが、ある年


奥様から年始の挨拶を断る訃報が届い


た。


詳しいことは書いてなかったが、脳卒


中だったらしかった。 


お世話になっていながら、あっけない


お別れであった。


その後奥様はお嬢さんと札幌への道が


貫通したこの地で喫茶店を開かれたと


いうが病勝ちになった僕には行ってみ


ることもできなくなった。