2007年7月30日月曜日

コーナー・リフレクター失敗談

 入社後すぐに与えられたトラッキングレーダー提案書作りの一環として文献にあったコーナー・リフレクターの反射率を測定することになった。hp(ヒューレットパッカード)社のSG(Signal Generator=信号発生器)とマイクロ波受信機とを用意して社の6階ビルの屋上でリフレクターを高い鉄塔支柱に吊り下げ反射電波強度を測定しようとした。
 今考えてみると全く無謀な試験である。SGの1mw(ミリワット)程度の送信電力を発信しアンテナを向けたコーナー・リフレクターから反射される信号強度など普通の市販の受信機で受信される電力ではないのだ。早く言えば、この程度の試験でも既にレーダーの域に入り大きい送信管から発射される数キロワット以上の送信電力があって、受信機はS/N(信号対雑音比)の優れた受信機を要するのだ。しかも屋上で至近距離で測定しようというのは土台無理な話である。例えば150m離れた距離からの反射を測るには1μs(マイクロ秒)の分離をしなければ自分の送信と重なってしまうから、観測できない。つまりがレーダーの原理を知らないで無謀に始めた実験だったのである。
わが国の戦後レーダーの揺籃期だったものと見え、怖いT技術部長も新入社員のやることを見守ってくれたのである。夜中になって実験を終え寮に帰るときには大きい外車のタクシーを用意してくれた。ふわふわしたクッションの大型の米車の後ろ座席に不安そうに乗っている新入社員の姿は滑稽と言っても良かった。
 距離を離せばよいと知ってから、コーナー・リフレクターに気象庁のラジオ・ゾンデ用の風船を手に入コーナー・レフレクターを吊り下げ屋上から凧糸で凧揚げのように風に乗せて流した。風船は工場から鹿島田の町の方向に流れていったのは良いが2kmくらいで町の中に落ちた。青くなって風船の落ちた場所に行って回収したは良いが、工場から街まで凧糸は残ってしまった。手繰ってもなかなか引き寄せることは出来ない。糸はバス道路を横切り、他所の屋根を通り、店先を通り、自転車が通る道路にも掛かり、どうにもならない。鋏を持って片っ端から糸を切って歩いた。今こんなことをしたら問題になるところだろうが、世の中大らかだったのであろう。糸が落ちた道筋に自分の会社の女子寮があり、どうしても屋上に引っかかった糸を切りに上がりたかった。管理人さんに頼み込んでおそるおそる上がったはよいが、非番の女子工員さんたちに見つかって大騒ぎになって、ホウホウの態で逃げ帰った。
 お蔭でレーダーが何たるかを身をもって知ることになったのは不幸中の幸い、赤面の至りだが今になって白状するのである。